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アドベンチャーとアクシデントは血縁関係にある。 [旅「アジア」]

それから、僕は可能な限り目を開けていることにした。あたりがオレンジ色に染まり、夜の匂いが訪れても起きていた。車と共に僕の意識も走る。両隣からスースーと寝息が聞こえる。スペイン語も同じ。またひとつ新しい発見。と、とつぜん道がガタガタと騒ぎだした。「おっさん!何事だ!?」僕は叫んだ。悪路。それもとんでもなくひどい。真っ暗なのでよくわからないが、たくさんの大きな石にタイヤが喧嘩を売られている。バイーン、バイーン。カエルのようにランクルが跳ねた。そして次の瞬間、ドゴォーン!!!僕らは地上から落ち、車が停まった。ブ・ブ・ブ・ブ・ブ・・・。初めに声をあげたのはホセだった。「エ、エドワルド・・・」後は何を言っているのかわからない。安否を確認しているのだ。「リョウスケ!大丈夫か?」心臓がバクバクしている。1500mを走ってきたみたいだ。遅れてきた恐怖ってやつか。「なんとかな。つか、みんなケガはないのか?」


今見ている風景は、明日の思い出だ。 [旅「アジア」]

「おいおい、大丈夫なの?」リョウスケに声をかける。いきなりこれでは先が思いやられる。整備してから来いよ・・・。問題の後輪を覗き込むと、おっさんが職人を連れてやってきた。職人の手にはスパナが握られている。ネジが緩んでいるのだろうか。だが心配は取り越し苦労だった。職人は車の下に潜り込むと、ものの20分ほどで修理してしまった。よしよしと、満足げな4人の乗客。修理代を支払ったおっさんは、きちんと領収書をもらう。大事だよね、そういうの。それでは、気を取り直して出発しよう。景色はずっと変わらない。草木のない山と山と山。それらを両側に見ながら細長い道路をひたすら走り続ける。砂埃が入るので、窓は締め切り。どこまでも続く禿げ山と荒野は、両親が住む故郷にはない。この先この風景を彼女たちが見ることは99%ないだろう。ふと心に感傷にも似た気分がわき起こった。眠っている暇はないぜ!耳元でストーンズのキースが叫んだ。


トラブルがヒッチハイクをしているわ。 [旅「アジア」]

「お前なにか食料持ってきた?」「ビスケットだけかな」「俺もみかんしかないわ」「まあ、途中の村で調達すればいいでしょ」たわいのない日本語が続く。せっかく知り合えたので、本当はホセと打ち解けたいのだが共通語がボディーランゲージしかないので意思を伝えるのが難しい。世界ではいろいろな言語が必要だ。そのうちに、睡魔が誘いにやってきて、僕はすっかり眠ってしまった。目を覚ますと、車は停まっていた。窓の外ではリョウスケが伸びをしている。ラテン系2人の姿はない。どこかの町の交差点の手前。地図がないので皆目検討もつかない。車の右手にはガレージのような建物。シャッターが開いた奥には、タイヤや色々な器具が無造作に置かれている。どうやら修理工場のようだ。入り口の真下でおっさんは、青い作業服を着た兄ちゃんとなにやら話していた。おっさんが後輪のタイヤを指差す。おいおい、まさかもう故障かよ・・・。眠気がいっぺんに飛んだ。


車が走って、僕らは休む。 [旅「アジア」]

もともと6人乗りのところに5人なので、スペースはゆったりとしている。ホセの腕毛が終始密着する心配もないだろう。車体は1995年モデル。外見は相応に古臭いが、内面は思ったより悪くない。リクライニングもきちんと機能している。バックミラー越しにおっさんと目が合う。全員が乗り込んだのを確認すると、ランクルはうなりを上げて走り出した。また長い旅の始まりだ。ネパール国境までは普通に走って2泊3日。洪水による影響を加味しても、丸3日あれば問題なく到着するだろう。すぐに町が見えなくなって、木がほとんど生えていない山が顔を現した。めったに雨が降らないのだ。そういえば、滞在中もいい天気だった。五体倒地に代表されるチベットの祈りの中には、雨乞いも含まれているのかもしれない。砂埃を上げてランクルは走った。窓は閉め切り。ハンドルつきのセルフパワーウインドウ。「順調に行きそうだな」リョウスケが安心したような顔をした。


せめて、あいた口はふさいでくれ。 [旅「アジア」]

ボサボサの髪の毛をみると、寝坊をしてすっとんできたいに違いない。耳が不自由なのだろう、左耳にクリーム色の補聴器が挟まっていた。ニコニコしているおっさんの半開きの口を見ながら、一抹の不安が頭をよぎった。本当に大丈夫この人?無事に辿り着けるのだろうか。チベットからネパールへは、断崖絶壁の悪路が続くと聞く。それに加えて、100年に一度の大洪水だ。腕のいいドライバーでさえ苦戦しそうなのに・・・。「安心して。彼はプロフェッショナルよ」僕らの不安そうな顔を気にしてか、旅行会社のお姉さんが気休めの言葉をくれた。「まあ、信じるしかないしな」僕とリョウスケは微妙な顔を見合わせた。そうだよ、見た目で人を判断してはいけないよね。外へ出ると車が到着していた。運転席におっさんが手をかける。僕らもトランクを開け各々の荷物を積むと、ランクルに乗り込んだ。助手席に年長者エドワルド。後部座席に、ホセ、僕、リョウスケの順だ。


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