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悲しいことがあると、兄貴はビネガーを多めにかける。 [旅「ヨーロッパ」]

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そのケバブ屋は、ロンドンゾーン2のエレファント&キャッスルにあった。大学寮の向かいだったので、帰宅途中に立ち寄っては、よくチップスを頼んだ。店はキプロス人の兄弟が経営していて、名前をファーゴ、ミーゴといった。大柄でおおらかな弟に比べて、兄貴は繊細そうな面長だった。店に入ると、その大きなグリルに目が釘付けになる。じりじりとラムが回って焼けている。まさに夢のメリーゴーラウンドだ。ケバブを頼みたい欲求にかられながらも、僕はチップスを頼む。ケバブは毎日食べるには高かった。ある日、ミーゴ兄貴が珍しく声をかけてきた。「最近アキコを見かけないけど、どうかしたのかい」。僕はアキコがついこの前帰国したことを伝えた。兄貴は「そうかい」とだけ言うと、いつもの調子で、チップスをくれた。いつもより酸っぱい気がした。それから、新しい季節になり、新しいクラスメイトが増えた。ケバブ屋は今も変わらずそこにあるだろう。




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