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「おい、右ポケットも全部だ」と、警官は言った。 [旅「ヨーロッパ」]

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路地は薄暗かった。冬のアムステルダム。ハッパも、同性愛も、売春も、いろいろなものが自由な国。ひまわりを描いたゴッホが生まれた街。コーヒーショップでスカンクをくゆらせながら、1時間ほど過ごした。コーヒーショップの空気が好きだ。時の流れが遅くなり、感覚は現実と乖離する。何でもできる気がするが、何もする気が起きない。「帰ろうか」シンはかろうじてまっすぐ歩けるぐらいに酔っていた。

運河が流れる水路のほとりにある小さなノースターホテルが、3日間の寝床だった。部屋にはベッドが4つと洗面台があるだけ。半分しか開かない窓から、時折見える小舟が楽しみだった。ユキは相変わらずだぶついた腹をさすり、ケイタはものを言わずついてきた。

と突然、2人組の男に行く手を塞がれた。とびきりでかい白人たちだ。「パスポートを見せろ」と1人が警察バッジらしきものを見せながら言った。「いきなり何するんだよ!」とアタマでは怒鳴るが、カラダは正直だ。素直にパスポートを差し出す。それらをちらっと見て、次は金を見せろと言ってきた。「やっぱりかニセ警官め!」と怒りの顔を向けるが、カラダは正直だ。ホイと財布を渡す。命は売ってないを、実感する。ケイタはますます無口になっていた。永遠にも感じた5分間が流れた。4人の財布とパスポートをチェックすると、自称警官達は満足そうに「この辺は危ないから気をつけろよ」と去って行った。4人は所持品をチェックしたが、とられたものは何も無かった。本当に警察官だったのだろうか。それにしては彼らは不躾すぎた。ふと見ると、シンが固まっている。「大丈夫か、何かやられたのか」と聞いた。「ああ、やられた。パンツに手を入れられた。」とシンは答えた。なるほど、なんとか命は守ったが、タマは持っていかれたらしい。それから僕らは足早にその場を後にした。ここはアムステルダムだった。




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